お侍様 小劇場

   “だって そういう日。” (お侍 番外編 135)


年によっては、
GWも終息し、あぁあ学校が会社が始まるよぉと、
日常に立ち戻ったその鼻先にあるものだから、
ついうっかり忘れてしまうという罰当たりもしかねない。
今年もまた、そんな迂闊をやらかす人が多そうな日取りであり。
まあそれでも、
様々なところが何かにつけ記念日を宣伝へ乗っけてる昨今なので、
コンビニなどの買い物先や、交通機関で見かけるポスター、
ネットのバナーや企業ツィートなどなどで、
お花はいかが、プレゼントはいかがという形で
目にする機会も半端ないから、
知らなくて間に合わなかったなんて言い訳は
難しいかもですけれど。(笑)

 “何しろ、そういうものへと接する機会が
  昭和一桁の爺さん並みにない あやつでも、
  しっかりと把握しておったのだしの。”

国の外交にもそのまま活躍出来そうなレベルで、
膨大な情報や迅速緻密な機動力を持ち、
どんな管理職のどんな窮地へも、
どんな交渉への切り札投入へも、
手厚いフォローを早急に取れますという、
某一流商社の 対外交渉系役員らへのバックアップ担当部署。
末恐ろしいまでの ある意味“特殊部隊”を率いる、
壮年の室長様が、今日は珍しくも日曜なのに自宅にいらして、
リビングから庭先を望んでおいで。
それは手入れのいい芝生が 生き生きとした明るい緑を敷き、
茂みや木立が季節の花を終えたり始めたりしている初夏の庭園は、
それはいいお日和の下、
若い緑に負けぬほど、そちらも瑞々しくも凛々しい二人を
陽盛りの中に映えさせておいで。
どちらも上等な玻璃玉のような澄んだ双眸をし、
金髪に色白な男子の人だが、
どちら生粋の日本人なのだそうで。
その遠い祖先の中に
もしかしたら外国の血統が一人か二人いたのかもしれないが、
少なくとも、向こう三軒両隣り、(おいおい)
現存なさっておいで、若しくは逆上れる限りの親類縁者には
そういう方もいないとのことだし。
それより何より、
どちらも純日本風の作法やお行儀やらに
厳しいほど通じておいで。
その上、武道の腕も免許皆伝級で、
半端な黒髪の日本人より よほど
“エキゾチック・ジャパン”を体言している存在とも言えて。

 「そのツゲの枯れたところは落としますが、
  そっちのサツキはそのまま様子を見ましょうね。」

 「……。(頷)」

槙とモクレンの枝振りとのバランスもありますしと、
日本庭園の基本まで
把握なさっておいでの七郎次さんの指導の下。
先日の都大会で個人優勝し、
代表選出されたばかりの高校生剣豪さんも、
花鋏の扱いにはすっかり慣れての、
伸びすぎた枝への手入れを手伝っておいで。
この時期はまだそれほど手を掛ける必要もなく、
草むしりと花が終わった鉢の移動くらいのものなのだが、

 「…っ。」
 「おや。もう出ましたか?」

白い花の蕾をたんとつけたみかんの茂みを見ていて、
不意におおうと飛びすさって何かを避けた久蔵殿の様子に、
おっ母様がくすすと微笑う。
柑橘の葉を好むアゲハが飛び交うこの時期は、
梅雨前にようよう太ったアオムシたちが、
その模様も鮮やかに姿を見せる頃合いでもあって。

 「今年は早いですね。」
 「〜〜〜。」

軍手をはめていても、
何より自分の手指ほどの小さな存在、
毒も持たない幼虫だというに。
どこかグロテスクなその風貌が気持ち悪いのか、
怖いもの知らずで通っている久蔵の、
唯一の苦手でもあるそうで。
とはいえ、
七郎次が殺生するほどでもなかろと構えている以上、
殺虫剤を噴霧するわけにもいかず、

 「大丈夫ですよ、私が取り除いておきますから。」

鑑賞用とはいえ、
みかんがちいとも実らぬのも困りますしねと、
はんなりと微笑う端正なお顔へ、

 「〜〜〜。///////」

不甲斐ないと思うのか、肩をすぼめる次男坊の素直な様子が、
遠目ながら勘兵衛にもなかなかの眼福であり。
青々とした緑の中で木々の手入れに勤しむ二人を眺むる当主様、
胸元から腰回りに掛けておいでの帆布のエプロンが物語る
とある作業の末を知らせる軽やかなチャイムの音に気がつくと、
大窓をからりと開いて声を張る。

 「久蔵、オーブンのタイマーが切れたようだぞ。」
 「…っ。」

今日は、日頃世話を焼かれる側の男衆二人で、
おっ母様を主賓とする晩餐の支度に勤しんでもいて。
子牛肉のローストとやらを仕込み、
それが焼けるまでを
庭に出ていた七郎次を追って出てった彼へ、
わざわざの伝令役を務めてやった勘兵衛様。

 “あとは鷄のテリーヌを仕上げて、
  プディングを蒸せばおおかた終わりか。”

やれば出来る男衆たちだが、
実は…お隣りの五郎兵衛さんに
先週のうちの数日かけて色々レクチャーされた末の晴れ舞台。
庭先から急いで戻って来た金髪の若き剣豪さんを迎え入れ、
続いて帰って来た主役様には、
キッチンではなく手洗いへ向かうよう行く先を指示。

 「…大丈夫なんですか?
  さっき勘兵衛様、キッチンで何か唸ってましたでしょ。」

 「大事ない。」

実は、オーブンの天板の縁でチロッと火傷を仕掛かったのだが、
せめて今日のうちは内緒で通すおつもりらしく。
慣れない彼らの奮戦 実って、母の日が無事に祝えますようにと、
テラスに躍る木洩れ陽が応援するよに揺れていた。






  〜Fine〜  14.05.11.


  *今年は勘兵衛様もキッチンに立ってるようで、
   ちゃんと共同戦線が張れてりゃいいんですけどね。
   味付けで揉めないように、
   五郎兵衛さんに頼ったのかもですね。(笑)

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